恋×濱田くん

「…だ、はまだー」

「痛っ、」

「ぼーっとすんなよー」

「は、はい…すんません…」


先生から教科書で頭を叩かれてやっと、自分がまた彼女のことを見つめていたことに気付きます。木曜日の5限目。席替えをして窓際の席になってから、この時間になると退屈な先生の話なんて全然入ってこなくて。外には体育の授業で友達と笑い合う彼女の姿。彼女を毎回無意識に探して、ぼんやりと眺めることが濱田くんのその日の日課なのです。


でも、こうやって眺めてられるのもあと少し。もう卒業式までのカウントダウンはすでに始まってるから。


早く、早くしないと。



想いを告げようとしたことは何度もあったのです。幼稚園の頃から今までに何度も。彼女が自分の名前を呼んで、楽しそうに自分の横で笑ってるのが可愛くて仕方がなくて。何度も彼女の頭を撫でようと、手を伸ばしては引っ込める。


「ん?」

「ん?いや、」

「え、なに?何か頭についてる?」

「え…あ、ああ、ホコリ。取ろうとしたら風で飛んでった」

「そっか、ふふ、ありがと」


こんなにずっと一緒にいるのに、毎日彼女が何を願って誰を想っているのかも、結局大事なとこは何も知らずにいて。





「…彼氏できた、」


ある日、彼女は少し頬を赤くして報告してくるんです濱田くんに。濱田くんは、こんな表情をした彼女なんて見たことなくて。


「ま、まじか!良かったなあ!」


と、ただただ笑うことしかできなかったのです。



【想い通りにならない事が多いのは 今に始まったわけじゃない】



本当は薄々気付いてた。彼女の気持ちが自分に向いてないことくらい。好きな映画も好きな食べ物も誕生日も全部知ってる。だって幼稚園の時からずっと見てきたんだから。


彼女の幸せを願うけど、



【きっと誰より君を想っているのは、今日も明日も僕だから。】


絶対俺の方が彼女のこと…あかんあかん!って頭をくしゃくしゃっとして、そんな気持ちを消そう消そうとするんです。



結局、想いを告げることができないまま、卒業式当日。式も無事終わり、教室を出ると卒業生とその保護者、先生、後輩達でいっぱいで。そんな中でも、やっぱり彼女の姿を探してしまう濱田くん。


「あ、」


濱田くんの目に映ったのは、泣いた後なのか、少し目を赤くした彼女とひとりの男の子。ちょうど男の子が第二ボタンをとって彼女に渡しているところでした。彼女は嬉しそうな笑顔を彼に向けていて。



「なぁ、ええの?」

「え?」

「気持ち、伝えんくて、ええの?」

「…」


唯一、濱田くんの気持ちを知っていて長い間相談に乗ってくれてた女の子が、濱田くんの目線を辿って気付き、声をかけます。


「行ってき!ちゃんと伝えてき!」


ほら、と背中を押され、よし!と気合いを入れ、仲のいい友達の群れからひとり離れ、もうそのまま真っ直ぐ歩きます。



ずっとずっと、言いたかった。でも伝えた後、彼女はどんな顔をするのかなって想像するとやっぱり言えなくて。



【会えなくなる前に 言えなくなる前に】



でも、今日は。今日こそは。



「あの、!」

「あ、はまちゃん!」

「あの、さ!」

「うん?」

「…俺、な?」



end.