リッツパーティー×重岡くん



たぶんメールもあんまりしないし電話も5日に2回くらい、夜寝る前にちょっとお話するくらいで。12時がタイムリミットなんですよね。


「あ、もう12時…」

「あ、ほんまや」


って。時間教えなきゃ1分でも2分でも長く話せるのに、重岡くんが気付くまで話せるのに。なのに彼女は毎回12時だよって。


「明日早いの?って毎日シゲは6時起きか(笑)」

「まぁな〜。あ、でもな?最近寒いから加湿用に溜めてたお湯抜く間に気づいたらまた寝てんねん。二度寝(笑)」

「え〜?シゲが?」

「まぁ8時までには起きてるけどな」

「そっか」

「うん、」

「…うん」


彼女からおやすみを切り出すことはないんですよね、毎回。だってできることならもっと重岡くんと電話してたいもん。


「じゃあ…そろそろ寝るな、俺」

「うん、ごめんね12時過ぎちゃった」

「や、ええねん」

「うん」

「…ほんなら、また連絡する」

「はい」

「おやすみ」

「おやすみなさい」

「……。」

「……。」

「…はよ切れや(笑)」

「ふふ、ごめん(笑)おやすみ!」

「はいはい」


ツー、ツー。


必ず、彼女が切ってから携帯を耳から離す重岡くん。通話時間が表示された画面を眺めて、


「ごめんな、」


と呟いてからお布団に潜りこんで考えます。


【次の休みには会いに行こう。謝る暇があるなら会いに行こう】



電話を切った後、彼女はこう思います。重岡くんと中々会えない日が続いてるけどしょうがない。


「シゲはお仕事がんばってるんだから」


って。もう絶対、シゲを困らせるようなこと言わないって、自分の中で決めてるから。




少し前の話。いつも通り、夜の11時半くらいに重岡くんが彼女に電話をかけるんです。


「あ、もしもし?」

「あーシゲー?」

「…」

「えー?もしもしー?シゲー?」

「お前…酔ってるやろ」

「えー?酔ってないよー」

「今どこ?」

「いえー!今さっき帰ってきたー」

「…飲みすぎちゃう?危ないやんかそんな飲んで、一人で帰って来て」

「…」

「あんま飲めへんのに」

「…」

「おーい、聞いてんの?」

「…うるさいよ」

「えっ?」

「じゃあそんなこと言うなら…シゲがっ、(迎えにきてよ…)」

「…」

「…なんでもない。ごめん、今度から気をつける」

「…俺が、なに?」

「ううん、なんもないよ」

「嘘やん。今言おうとしたこと、言うて」


一切寂しいなんて言われたことないし、いつも「頑張ってね」と重岡くんの背中を押してくれてる彼女。でも、我慢してるんです。彼女はいっぱい我慢してる。それを、重岡くんもわかってる。

「無理してるんやろな、我慢させてんな、俺」って。だから、今日は彼女の弱いところが少し見れるかなって、見せてくれたら受け止めてあげたいなって、思うんですよね。



「嘘やん、今言おうとしたこと、言うて」


こう言われて言葉が詰まる彼女。もう、出かかってる。『会いに来て』『寂しいよ』って。でも、やっぱり


「シゲ、あのね。会いたい時にいつでもしげはいないけど、寂しくて辛いこともお互い様で、分け合えてるんなら、私は嬉しいよ」

「…」

「ってふはは!私何言ってんの〜やっぱちょっと酔ってるかも!お風呂入ってくる!」

「え、?は、ちょ、」

「じゃあシゲは12時には寝るんだよ!」

「え、あ、うん」

「じゃあね、おやすみなさい」

「おっおい!」


ツー、ツー。


この日が最初で最後です。彼女からおやすみを言ったのは。でも重岡くんもわかったんです。ちゃんと。


「私は嬉しいよ」


【そう言った君の声がいつもより寂しそうで本当は いつもそばにいて って言ってる事、やっと気付くんだ】




ある日。


「明日朝むっちゃ早いから今日は電話できひんねん、ごめん。おやすみ」


お風呂から上がって携帯を見ると重岡くんからメールが。


「そっか。寝坊しないようにね!おやすみなさい」


…今週は1回だけだったなあ、声聞けたの。って考えながら返信をします。


『っ!だめだめ!1回でも充分だよ!』って自分に言い聞かせるんですよね。


その後彼女は、なんとなくまだ寝たくなくて映画を観て結局1時過ぎにお布団に入りました。明日はおやすみなのでたくさん眠ろう、と。



ーーー〜〜〜♪


「…」


携帯が鳴ってることに気付きます。と同時に玄関のチャイムも鳴ってる。


ーピンポーン


「なに…まだ9時じゃんか…」


携帯は後回しにして、身体を起こして玄関に繋がる受話器をとります。


「はい…」

「遅い!」

「…??」

「いつまで寝とんねん、開けろやー寒いねんけど」

「………え、」

「おーい、寝てんの?おま…」


ガチャン!

急いで玄関に向かってガチャガチャって鍵を開ける彼女。扉を開くとそこには…


「っ、なんで、」

「焦りすぎ(笑)」

「はぁ??待って、」

「むっちゃ寒いねんけど、中入れてや。あーさっむ」

「なんでっ!?なんでシゲがいるの…」


そこには、口が隠れるくらいにマフラーをぐるぐるっと巻いてポケットに手をつっこんでる大好きな彼が。


「なんでって…(笑)…お前に会いに来たんやんか、」


と頭をガシガシっとかく重岡くん。照れるとしちゃうその仕草が変わってなくて思わず涙が溢れそうになる彼女。



昨日、急に明日お休みだと知らされた重岡くんは、彼女に内緒で会いに来たのです。


【次の休みには会いに行くから】


と決めていたから。いつもよりまた早い時間に起きて、二度寝しないように。彼女の好きなお菓子や飲み物を買って。目をこすりながら、歩いて。電車に乗って。


【足りないものを見つけて それが君だとちゃんと言おう】


電車から降りて、彼女のびっくりした顔を想像したり、第一声なんて言おうか、とか。そんなことを考えて歩いてると顔も自然と緩んで、だんだんと早歩きになっていって。



離れてても、どんなに忙しくても、彼女の笑顔を失くすようなことはしたくない。


【君の心がいつだって晴れ渡るように努力をしなくちゃ】



「言ってよ〜…!びっくりするじゃん…!」

「びっくりさせたかってん(笑)泣くなや〜(笑)」


今日はいっぱいわがまま聞いてやろう。何でもしてあげよう。


「あのさ、俺、」


【君の弱さも強さも全部まとめて面倒見るから】


「うぅっ、な、に…」

「ちょ、おまっ、鼻水…!汚いねんほんま!ほら〜もう」

「だって、シゲが〜〜っ」

「はいはい、もうええから、拭けってまず(笑)」


【なんて言えたらいいなって、思ってるけどこれは後でいいや】



end.