「あいかわらず」な重岡くん
「おーい」
「起きてますか」
「寝た?」
『寝た』
「起きてるじゃん」
『何やねん』
「漫画返したいので今から向かいます」
また彼からの返信を知らせる音が鳴った気がするけど、もう彼の返事なんて気にせず、二重にした紙袋を手に取り、Tシャツの袖をなびかせながら自転車を飛ばす深夜0時。
チャイムを鳴らすと、VネックのTシャツにグレーのスウェットを履いて眼鏡をかけている彼が、いつも通り玄関の扉の隙間からこちらを覗くように出てきた。
「ん。」
と、紙袋を突き出すと
『おぅ、サンキュ』
と手を伸ばし、紙袋を受け取る彼。
「サンキュってそれだけ??」
『それ以外何があんねん(笑)』
「意地悪だよね相変わらず。この、まゆげ!」
『はあ?!お前なあ?!』
会いたくなった、ただそれだけなのに。素直になれずにいつも通り相変わらずの関係で喧嘩して、ヘラヘラ笑っていつもの調子。
これが私達のいつも通り。
だって君はずっと友達だもの。
「そんなんじゃだめ!」
「むり!」
「むりじゃない、いつもと違う姿見せよ!」
「むりだって、むりむり!」
友達とこんな会話をした次の日。深夜0時。
おろしたてのサンダルつっかけて、またもや自転車を飛ばす。彼の部屋までの階段を踏みはずしそうになりながらもかけあがる。
むりむり、なんて言ってたのに新しいサンダル履いて会いにきている自分がおかしくて、でも、なんだかワクワクして。
チャイムを鳴らすと、いつも通り彼が出てきた。玄関のドアの隙間からまたこちらを覗くように。
『…何かあった?』
「……」
『おーい』
「…何もないよ、」
やっぱりいつも通り、意地悪で相変わらずな彼だ。少しでもワクワクした自分が恥ずかしい。
『嘘つけ、今日は何の用や!予告なしで息切らしてやってきて、何もないわけないやろ』
「……ただ会いたくなったから。それだけだよ」
言ってしまった。恐る恐る顔を上げると、目を丸くして驚いている彼と目が合った。…少し、顔が赤い。
サンダルには気付かない、髪切ったのもわかんない。
でもいいんだ。
相変わらずの彼もひとつだけ気付いてる。
「…〜〜っじゃあ!おやすみ!」
自分のしてしまったことが急に恥ずかしくなり、早口で声をかけその場を去ろうとすると
『ちょ待ってや、あの、あ〜〜〜〜!』
と自分の頭を片手でわしゃわしゃした後、玄関のドアを今まで以上にガッと広く開けて、
『何やねんお前…ほんっま……調子狂うわ』
『…アイス。あんねん。お前の好きなやつ。食ってけ』
と伏し目がちで言う彼が相変わらずで、気付かれないように少し笑った。