シャッター×重岡くん
「は?何言うてんの?」
『…だからね、別れてほしい』
「…ほんまに言うてる?」
『…ごめん』
「……何で謝んねん」
涼しい風がわたし達の関係も思い出も全部連れて行ってしまった。もうすぐ夏も終わってしまう。
『…じゃあ、ばいばい。』
最後まで彼に向き合うことができなかった。俯きながら後ろを振り返り、前に進もうとした時、
「ちょお、待って!」
彼から腕を掴まれた。
「やっぱり納得いかへんわ。せめて理由くらい聞かせてほしいねんけど。」
『…』
「俺のこと、嫌いになった?」
『…』
わたしは、下唇を噛んで首を横に振ることしかできなかった。
すると掴まれた腕をさらに引き寄せられ、不器用なキスをされる。
「…最後やから。ごめん」
『…うん』
「格好悪いな、俺(笑)」
恥ずかしそうに、でも切なそうに笑う彼に、平気なフリをしながら必死で震えてる足の横でぎゅっと手を握りしめるわたし。
(わたしの方が格好悪いよ)
ー 心のシャッター押して忘れない様に
胸の端っこに刻んだの ー
出会った頃は幸せだった。あの日一緒に帰った黄色の道も空も全部全部。時を止めたいくらい。
時間が経つにつれ、わたしは彼の前で素直になることを忘れてしまった。
「新しい服?俺それ着てんの初めて見たわ。ええやん」
『う、うるさい…』
ありがとうって言いたいのに、擦り切れた靴のかかとに彼が気づいて、嫌われないかと不安で。
「元気してるか?最近会われへんくてごめんなあ?寂しない?」
寂しい時も逢いたい時も、言うと嫌われないか不安で何も言えない自分にため息をつく。
そんな思いが募って切り出した彼との別れ。
逢えないわけじゃないけど、今は逢いにゆけない。もう少し自分を見つけたら…その時は…
「はよ、」
『わ、あ、しげ』
白いシャツを着て校門の前の坂をのぼって追いついてきた彼に後ろから頭をくしゃくしゃっとされる。
「あれ、なんか今日ちゃうな?なんやろ?」
『見、見ないで』
昨日ついつい調子にのって切りすぎた前髪を右手で押さえ、彼に背を向ける。
嫌われたくないから。
「前髪切ったん?なあ見してや」
『絶対いや!』
「そんな恥ずかしないって、見してみ?」
俯くわたしをからかったあなた
今も変わらず元気でいますか?
今年もまた、あの頃と同じように、夏の終わりを告げる合図が聞こえてくる。
あなたとあたしの目の奥に生きる二人が同じ笑顔でありますように。
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